平和への思いを詠んだ短歌コンクール「八月の歌」(朝日新聞社主催、岐阜県高山市共催、高山市教育委員会後援)の優秀賞10首と奨励賞45首が決まった。今年で13回目。一般の部に805首、中学・高校の部に1183首の合わせて1988首の応募があった。フランスで平和活動に取り組む歌人、美帆シボさんが選考した。入賞作は次の通り。(敬称略、50音順)
◇優秀賞
【一般の部】
かくれんぼ遊びをしたる路地裏を植民地朝鮮と知りたる八月(はづき)(東京都世田谷区)内田三和子
ドミファソシ琉球音階爆音に搔(か)き消されどもウチナンチュは舞う(福岡市)大島慶子
8・6の動員学徒偲(しの)ぶ碑を想(おも)えば哀し建物疎開(広島市)吉川徳子
終戦の后後を数機が南方へ征(ゆ)くを見送る忘れ得ぬ夏(大分市)寺司愛子
三十年学級文庫に読み継がれ「はだしのゲン」の激しき傷み(三重県川越町)藤井恵子
【中学・高校の部】
ヒロシマに希望をくれたシンボルの被爆電車は止まりはしない(神奈川県立厚木東高3年)島津元樹
僕たちは自分にしかない色をもち世界という名のキャンバスを塗る(神戸市立六甲アイランド高3年)永井優菜
段ボール一枚で雨凌(しの)ぐ人コロナの「コ」の字も耳にせぬまま(愛知県立幸田高2年)難波晴菜
大志抱き法科学びし伯祖父は憲法九条知らずに散りぬ(目黒星美学園高3年)野原唯
白衣舞い見えない敵に向かいゆくウイルス半分差別半分(静岡県立藤枝東高1年)平田花乃
◇奨励賞
【一般の部】
慰霊碑の奥の炎を遠くても画面の前で食い入る眼差(まなざ)し(アルゼンチン)相川知子
親族まで殺させられしこども兵が学びて作りし家具とルワンダ(名古屋市)犬飼亮介
魚雷覆うシートの縁を折り曲げてミシンをかけし十三の夏(名古屋市)入江睦美
侵略の先兵として利用さる「宣撫官(せんぶかん)」とふ平和の戦士(岐阜県高山市)宇田恵美子
「普通」ではあり得ないことを押し通す「平和」の名の下オリンピックは(岐阜県高山市)片岡和代
大陸の何処(いづこ)に眠る軍馬たちよあのいななきは八月の別れ(山口県下関市)河野京
二の腕を出しつつ思ふ届きしか荒れし彼の地にコロナワクチン(岐阜県高山市)清原俊子
平和という町名(まちな)が残るヒバク地で今日も語らる核は要らぬと(長崎市)七條利幸
B29に体当たりして散華せし朝鮮人(コリアン)兵の勲(いさおし)哀れ(愛知県刈谷市)鈴木鋭二
軍服を着た若き日の曽祖父の遺影が絵だと気づいたあの夏(埼玉県久喜市)田口陽香留
ワクチンを背負い山行くユニセフの一歩一歩の平和のあゆみ(宮城県蔵王町)中松伴子
憎しみを持たないままに民を撃つ国軍というミャンマーの兵(岐阜県高山市)西春彦
「日本にはあるわけないね原発は」ヒロシマ訪ねしフランスの子ら(フランス)降旗あつ子
風のなか鉄条網に赤・黄の小裂を結ぶ辺野古の浜に(岐阜県高山市)和田操
インパール作戦にわが父がゐて狼(おほかみ)一八七〇三の認識票(にんしきへう)(奈良市)和田康
【中学・高校の部】
争いが終わって次はひがい者の心の中の戦争だった(岡山市立光南台中3年)磯野結心
語り継ぐ今にも消したいあの過去を被爆者たちの思いをのせて(岡山市立光南台中3年)榎永太朗
死ね殺すすぐ言う君のその口は知っているのか鉄舐(な)め飲む味(岐阜県・高山市立日枝中3年)追分彩夢
今もなお地雷が命奪ってる踏んだ瞬間崩れる日常(静岡県立藤枝東高1年)大澤世奈
甥(おい)っ子とテレビに映る幼い子一つの違いはおもちゃと銃(神奈川県立厚木東高3年)落合はな
水たまりすくってのんだ黒い雨なにも知らない子供達(岐阜県・高山市立日枝中3年)河合朔哉
誇らしき笑顔浮かべて突き進み部品に変わる命散りゆく(岐阜県・高山市立日枝中3年)川上和香奈
指先で殺せる時代その人もきっとだれかの大切な人(岐阜県・高山市立国府中3年)小長谷花菜
紛争とさらにコロナの追い打ちが難民たちを苦しめている(静岡県立藤枝東高1年)高根颯希
つなぐ手に黒い雨など降らさぬと未来を信じ君と目を合わす(岐阜県立吉城高3年)田上雷
幸せの基準はみんなちがうけど平和の基準みんな同じさ(京都府立南丹高3年)時長胡桃
戦争は核や原爆だけじゃない無関心こそ戦争の種(京都府立南丹高3年)中川祐希
青空を掴(つか)むが如(ごと)く手を伸ばす禎子の像は平和の道しるべ(岐阜県立飛驒神岡高2年)中島彩音
人々が傷つかぬことが平和なら言葉でえぐる今は平和か(岐阜県・高山市立朝日中3年)長瀬有輝
平和とは何を思って平和なの鏡を片手に明日を見つめる(岐阜県・高山市立日枝中3年)中田龍樹
ただいまを聞ける幸せ戦時中行ってきますが最期の言葉(岐阜県・高山市立国府中3年)中本美咲
またあしたそもそもあしたあるのかい地球はとっくに限界なんだ(岐阜県・高山市立国府中3年)西田唯人
私にも平和に出来る何かあるそう信じれば見つかりそうで(神奈川県立厚木東高3年)野間成美
向き合うなあまり喋(しゃべ)るな出歩くな人との壁を作るウイルス(静岡県立藤枝東高1年)袴田汐莉
人々は思いをはせて止まらない3本の指高らかに上げ(桐蔭学園高1年)橋本志真
題「平和」三十一字に何を書く考え悩むふと気付く平和(いま)(岐阜県・高山市立国府中3年)畑趣太郎
人は死ぬその一言で殺(あや)められその一言で命救われ(岐阜県・高山市立日枝中3年)畑中優人
犠牲には目を背けては生きて行くそして皆言うこれが平和だ(名古屋高1年)服部弘太郎
繰り返し無感情で銃を撃つゲームの中ぼくはまともか(岐阜県・高山市立日枝中3年)本田翼
今は無き黒い雨は被爆者の心の中で降り続けている(岡山市立光南台中3年)村上友彩
ツイートで一つの言葉がその人の人生までも左右させる(岐阜県・高山市立国府中3年)森本和奏
世界から毎年届く十トンの鶴達が語る命の重さ(桐蔭学園高1年)山北優花
いつだって傷つく側は覚えてるあなたの歴史見返してみて(神奈川県立厚木東高3年)山城麻依
被爆者のこだまする声遠ざかる忘れることなきあの日の出来事(岐阜県・高山市立荘川中3年)横井寿里
コロナ禍で国民我慢する中で四年に一度か人の命か(静岡県立藤枝東高1年)渡邊春
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル